近年では換気の重要性に世間の注目が集まっており、空気清浄機を活用する方が増えています。実は空気清浄機の中には「HEPAフィルター」という高性能なフィルターがあることで、人々の暮らしに快適さをもたらしてくれます。とはいえ、このHEPAフィルターについて、よく知らないという方も多いでしょう。
この記事では、HEPAフィルターの特徴や仕組み、主な使用シーンなどを解説します。HEPAフィルターよりもさらに高性能なULPAフィルターについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
HEPAフィルターとは
HEPAフィルターとは「High Efficiency Particulate Air」フィルターの略称であり、日本語では高性能なエアフィルターのことを意味します。空気清浄機に用いられるエアフィルターの1つで、HEPAフィルターは性能に対して高い評価を得ており、空気清浄機だけでなく掃除機や工場のクリーンルームなどにも用いられています。以下で、HEPAフィルターの仕組みや寿命について解説します。
HEPAフィルターの仕組み
HEPAフィルターには、直径1~10μm(マイクロメートル、1マイクロメートル=1ミリの1000分の1)以下のジャバラに折りたたまれているガラス繊維ろ紙が使用されています。ろ紙には数十μmのスキマがあり、そのスキマを通して空気中の粒子をキャッチする仕組みなのです。
ろ紙のスキマが小さいほど空気中に漂う粒子を多くキャッチできますが、あまりに細かくしてしまうと空気の通り道も塞ぎかねません。そこでHEPAフィルターは、ろ紙をジャバラに折りたたむことでろ過面積を広くし、空気中に漂う粒子を複数回キャッチすることで捕集率を高めているのです。
HEPAフィルターの寿命(交換時期)
一般社団法人日本電気工業会によると、HEPAフィルターの寿命は、「初期性能から50%ダウンしたタイミング」だといわれています。HEPAフィルターは高い捕集性能を持ちますが、使用を続けると汚れや経年劣化などによってどうしても効果がダウンしてしまいます。加えて、10年間交換不要とされている製品もありますが、使用環境が悪い場所ではより短い期間で交換が必要になることも。
とはいえ一般の方では、「初期性能から50%ダウン」といわれても、適切に判断できない場合が多いでしょう。微差圧計を用いて「初期値から+80pa」という指標を覚えておけば簡単に交換の目安にできますが、微差圧計が家庭にない場合が多いです。
さらに、HEPAフィルターを取り換えるタイミングは製品によって異なるほか、使用環境や使用頻度によっても大きく変化するため、画一的な期間をお伝えすることは困難といえます。そのため、まずは製品に記載のある使用期間を参考にした上で、フィルターの効果が落ちてきたと感じたタイミングで交換することをおすすめします。
HEPAフィルターを交換する際の注意点
HEPAフィルターを交換する際には、フィルターへの付着物に注意しなくてはなりません。フィルターの付着物が飛散してしまったり、身体に付着してしまったりしては危険です。例えばHEPAフィルターに何らかのウイルスが付着していた場合、2次感染を起こす可能性も否めません。
もし業務用に使用している空気清浄機であれば、極力専門業者へ交換を依頼することをおすすめします。また、空気清浄機によっては、キャッチしたウイルスを不活性化させる機能を有したものもあります。安全を第一に考えたら、こうした機能が搭載されている空気清浄機を選択することも重要だといえるでしょう。
HEPAフィルターで捕集できる物質の例
HEPAフィルターには、世界・日本で共通する規格が定められています。規格を定めることで、一定以上の効果を持つ製品だけが、HEPAフィルターを名乗れるようにしているのです。
例えばJIS(日本産業規格)の定義によると、HEPAフィルターは「粒径0.3μm以上の粒子を99.97%以上捕集できる性能」を持っていなくてはなりません。一般的な物質の粒形、は以下の通りです。
物質名 | 物質のサイズ |
スギ花粉 | 30~40μm程度 |
ハウスダスト | 10~30μm程度 |
ダニ | 200~300μm程度 |
細菌 | 1~10μm程度 |
PM2.5 | 2.5μm程度 |
上記の通り、HEPAフィルターを使った空気清浄機であれば、空気中の物質のうちの多くをろ過できると考えられます。スギ花粉やハウスダストなど、人体に悪影響を及ぼす粒子をキャッチできる点は、HEPAフィルターの大きな利点です。
また、日本以外の各国にも独自の規格があります。例えばISO(国際標準化機構)規格や、ヨーロッパの規格であるEN規格などがありますが、日本の規格よりもさらに厳格です。そのため、これらの基準をクリアしているHEPAフィルターでは、さらに高性能が期待できるでしょう。
HEPAフィルターはどんなところで使われる?
HEPAフィルターは、以下のようなところで使用されています。
<HEPAフィルターが使用される主なパターン>
- クリーンルーム用フィルター
- 空気清浄機フィルター
- 家庭用掃除機フィルター
- 原子力施設排気フィルター
クリーンルーム用フィルター
HEPAフィルターが使用される場所としてはまず、クリーンルームが挙げられます。HEPAフィルターは、元々クリーンルームの換気装置用に開発されたものです。クリーンルームとは、専用のパーテーションで空間を作り、きれいな空気を絶えず供給することで作り出した清浄な空間のことを指します。
クリーンルームでは、外部からのほこりやゴミを一定数値以下に制御することが必要。塵やゴミなどは中へ持ち込ませず、クリーンルームの外に排除しなくてはなりません。
そのため、クリーンルームに使用している精密空調機器や製造装置の組み込みには、高い効力が見込めるHEPAフィルターを使用します。外気をHEPAフィルターに通すことで清浄した空気をクリーンルームに広げ、室内の空気を空調機器に吸い込む流れを繰り返すことにより、クリーンな空気を保っているのです。
空気清浄機フィルター
HEPAフィルターが活用されるパターンとしては、空気清浄機も挙げられます。空気清浄機には、主に以下の3種類のフィルターが備え付けられているのが通常です。
<空気清浄機のフィルター>
- プレフィルター:ペットの毛やほこりなど、空気中の大きなゴミを除去する
- 集塵フィルター:花粉やウイルスなど、細かいゴミを除去する
- 脱臭フィルター:においの元となる物質を除去する
上記の集塵フィルターに、HEPAフィルターが採用されるケースが多いです。これは空気清浄機の最も重要なフィルターといっても過言ではないため、効力が落ちてきたら適切なタイミングで交換することが重要なポイントだといえるでしょう。
家庭用掃除機フィルター
家庭用掃除機のフィルターとして、HEPAフィルターが採用されることもあります。ただし、高品質な家庭用掃除機に限られるでしょう。理由としては、HEPAフィルターの高い効力を引き出すためには、スキマをなくして高い密閉性を保たなくてはならないことから、高い技術が必要であるためです。
それゆえに一定以上の密閉性を保とうとすれば、どうしても費用は掛かってしまいます。もし安価な製品で「HEPA」採用と書かれていた場合、本当に採用されているかしっかりと確認することがおすすめです。特に近年では「HEPAフィルターを採用している」と記載する基準を厳しくしようという流れがあることにより、「HEPA」と表記される製品が減ってきています。
その分HEPAフィルターが採用されている掃除機であれば、排気に含まれる有害物質を除去してよりクリーンにしてくれることに期待できるでしょう。
原子力施設排気フィルター
原子力施設においても、HEPAフィルターが採用されています。HEPAフィルターは、換気後の空気を気体廃棄物として排出するにあたって、放射性物質をろ過することに活用されています。
なお、原子力施設の排気用に作られたHEPAフィルターには、350℃や500℃など高い温度まで耐えられる製品もあります。また、大きな風量にも耐えられるように作られているHEPAフィルターなどもあるため、原子力施設用のHEPAフィルターの種類は多種多様です。
HEPAフィルターを利用するメリット
HEPAフィルターを活用することで、以下のようなメリットが考えられます。
【HEPAフィルターを利用するメリット】
- 非常に微細な物質を除去できる
HEPAフィルターのメリットとしてまず挙げられるのが、非常に微細な物質でも除去できること。JIS規格では0.3μmの粒子に対して99.97%以上の捕集率を持つことが求められます。
そのため、花粉やハウスダストなどの非常に微細な物質についても効力を発揮し、よりクリーンで健康的な空間作りに役立てられるのです。 - ウイルス対策に活用できる
HEPAフィルターの効力は、ウイルス対策にも活用できます。近年大きく流行した新型コロナウイルス対策としても、HEPAフィルターには一定の効力が期待できるでしょう。EN規格などの高い効力が見込めるHEPAフィルターであれば、約0.1μmの大きさといわれる新型コロナウイルスの粒子を除去できる可能性もあるのです。 - 空気の流れを妨げない
HEPAフィルターは、空気の流れを妨げずに空気中の有害物質を除去できます。微細な物質を通さないためには密閉度を高めることが得策ですが、その場合空気の流れも遮断してしまうことになります。しかし、HEPAフィルターには微細な物質を通さない程度の空気の通り道が一定あるため、空気清浄機などで活用可能です。
HEPAフィルターよりも性能が良いULPAフィルターというのもある
HEPAフィルター以外に、「ULPAフィルター」と呼ばれる製品があります。ULPAフィルターは「Ultra Low Penetration Air Filter」の略称であり、HEPAフィルターよりも高い効力が見込める製品です。
ULPAフィルターは、0.15μmの粒子に対して99.9995%以上の捕集力を発揮し、HEPA製品では除去できない微細な物質も除去できる特徴があります。HEPAフィルターとULPAフィルターの違いをまとめると、以下の通りです。
HEPA製品 | ULPA製品 | |
規格 | 0.3μm以上の粒子を99.97%以上 | 0.15μmの粒子を99.9995%以上 |
デメリット | ULPAより微細な物質を通してしまう | HEPAより強度が低い |
採用例 | クリーンルームや空気清浄機等 | 高い清浄度が求められるクリーンルーム等 |
上記の通り、ULPAフィルターの方がHEPAフィルターよりも高い効力を発揮できるため、例えば半導体工場のように高い清浄度が求められる場合においては、ULPAフィルターの利用が有効です。
一方で、ULPAフィルターほどの高い効力は求められない場合も多々あります。例えば家庭用の空気清浄機であれば、フィルターの力だけでなく、空気清浄機の吸引力などもあるため、ULTAフィルターではオーバースペックになります。そのため、一般家庭に使われる家電などにおいては、HEPA製品が採用されていることが多数です。
まとめ
HEPAフィルターは、微細な物質でも除去できるフィルターです。ろ紙をジャバラに取り付けることで空気と触れる面積を広め、高い効力を発揮しています。HEPAフィルターであれば花粉やハウスダストなども除去してくれるため、クリーンで快適な環境の実現に役立つでしょう。
また、HEPAフィルターは、業務用空気清浄機のように産業用として活用されることもあります。産業用としても十分な効力を発揮するHEPAフィルターを活用し、快適な室内環境の実現に役立ててみてください。