新型コロナウイルスの感染拡大により、空気の入れ替えや清浄に注目をする方が増えています。空気中にはさまざまな物質が漂っていますが、近年になって「エアロゾル」という言葉を耳にするようになった方も多いのではないでしょうか。
この記事では、エアロゾルについて調べている方に向けて、エアロゾルの概要や人体に与える影響、エアロゾルによる感染を防ぐ方法などについて解説します。
エアロゾルとは
エアロゾル(aerosol)とは、気体中に浮遊する微小の液体、もしくは固体の微粒子と周囲の気体との混合体のことです。エアロゾル粒子は、生成過程の違いや視程・色の違いから以下のようにさまざまな名称で呼ばれます。
生成過程の違い | 視程・色の違い | |
名称 | 粉じん(dust) フューム(fume) ミスト(mist) ばいじん(smoke dust) | 霧(fog) もや(mist) 煙霧(haze) スモッグ(smog) |
エアロゾルの粒子径(球体と仮定した場合の直径のこと)の範囲は非常に幅広く、分子やイオンと同等の極小さである0.0001μm(マイクロメートル、1マイクロメートル=1ミリの1000分の1)から、花粉と同程度かより大きい100μmまでさまざまです。
エアロゾルは、数時間程度は空気中を浮遊し続ける上に感染性も失わないことから、感染の危険性について懸念されています。
エアロゾルが人体に与える影響
エアロゾル粒子は、呼吸気道系から人体に侵入し、健康にさまざまな影響を及ぼします。「呼吸器に付着して直接的に呼吸機能を低下させる」「呼吸器壁に異常組織を発生させて気道を閉塞させる」などがその例です。他にも、感染症やアレルギー鼻炎、粉じん吸入が原因となった中毒症状など、エアロゾルが人体に与える影響は多岐にわたります。
例えば代表的なエアロゾルには、「黄砂」が挙げられます。黄砂は、外国の乾燥地帯にある土壌・鉱物粒子が、風によって舞い上がった後偏西風に乗り、日本に飛来して大気中で浮遊したり降下したりするものです。黄砂を吸い込むと目や鼻、皮膚などのアレルギー症状や呼吸機能の低下、循環器系疾患などさまざまな悪影響が発生するとされています。
とはいえ、エアロゾルについては、まだ分かっていないことも多く、研究が進められているのが現状です。
エアロゾル感染とは
エアロゾル感染とは、空気中を漂うエアロゾルの粒子を吸い込むことで、エアロゾルが保有するウイルスに感染することです。1回の咳で約700個、1回のくしゃみで約4万個のエアロゾルが発生するとされています。エアロゾルは数時間ほど空中を漂うため、換気が不十分な室内や混雑している場所に長時間滞在すると、エアロゾル感染するリスクが高まります。
ただし、「エアロゾル感染」については限定的な意味合いがなく、飛沫感染や飛沫核感染も含む言葉として使われることが多いです。
「飛沫感染」とは、咳やくしゃみによって飛散したウイルスが、他の人の体内に入って感染すること。咳やくしゃみは水分を含むため、通常は1~2m程度の範囲しか飛散しません。それゆえに、ウイルス感染者と近距離で長時間話をすると、飛沫感染のリスクが高まるといわれています。
しかし、水分を失った飛沫で感染する「飛沫核感染」となると、飛沫した物質が水分量だけ軽くなるため、数時間にわたって空中を漂い、吸い込んだ人を感染させてしまうのです。
エアロゾルと新型コロナウイルス
近年世界的に流行している新型コロナウイルスは、近年の報告でエアロゾル感染することが分かっています。特にオミクロン株においては、感染拡大のスピードが速く、マスクを着用していても換気の悪い場所でのエアロゾルによる感染が確認されています。
それゆえに、いわゆる「三密(密閉・密集・密接)」状態になることを避けることが、新型コロナウイルスへの感染を防ぐ重要なポイントだとされているのです。
エアロゾルと感染を防ぐには
エアロゾルによる感染を防ぐためには、以下の対策が考えられます。
【エアロゾル感染を防ぐ方法】
- HEPAフィルターが採用されている空気清浄機を使用する
- 十分な換気を行う
- こまめに石鹸で手洗いをする
- 手洗いもしくはアルコール消毒をしてから食事をする
- 感染リスクが高い場所への外出はなるべく避ける
HEPAフィルターが採用されている空気清浄機を使用する
エアロゾル感染を防ぐ方法としてまず挙げられるのが、HEPAフィルターが採用されている空気清浄機を使用することです。HEPAフィルターとは、「High Efficiency Particulate Air Filter」の略称であり、端的には高性能なフィルターのことを指します。
HEPAフィルターは、「0.3μm以上の粒子を99.97%捕集できる」と規格がJISにおいて定められています。工場におけるクリーンルームの換気装置用フィルターにも使用されており、微小な粒子についても一定以上の捕集効果が期待できるフィルターです。
とはいえエアロゾルの範囲は広く、粒子の大きさも0.0001μm~100μmと幅があるため、全てのエアロゾルを捕集できるわけではありません。しかし、HEPAフィルターにはエアロゾル内に存在する新型コロナウイルスの除去効果があるとの実証結果も発表されており、エアロゾル感染の予防に一定の効果があると考えられるでしょう。
参考:東京大学HP
内部リンク:HEPAフィルター
十分な換気を行う
エアロゾル感染を防ぐ方法としては、十分な換気も挙げられます。エアロゾルは数時間程度空中を漂うと考えられており、換気をしないままの密室では感染リスクが高まってしまうためです。1~2時間に一回10分程度の換気を行うことで、部屋の空気を循環させられます。
しっかり換気することで、室内に漂うウイルスを一緒に室外へ排出することが可能です。窓や扉を開けたり、換気扇を利用したりすることで、効果的に換気を実施してください。
こまめに石鹸で手洗いをする
エアロゾル感染は空気感染とは異なり、手洗いによって手に付着したウイルスを除去できます。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が2022年2月4日に発表した「オミクロン株の特徴を踏まえた感染防止策について」でも、こまめな手洗いはおすすめされています。
厚生労働省が推奨する手洗い方法は、以下の通りです。
【効果的な手洗いの方法】
- 流水でよく手を濡らし、石鹸を付けて手のひらをよくこする
- 手の甲を伸ばすようにこする
- 指先と爪の間を念入りにこする
- 指の間を洗う
- 親指と手のひらをねじり洗いする
- 手首を洗う
- 十分に水で石鹸を流す
- 清潔なタオルやペーパータオルでよくふき取って乾かす
参考:厚生労働省HP
手洗いもしくはアルコール消毒をしてから食事をする
食べものと一緒に体内に入れてしまわないためにも、食事をする前に手洗いもしくはアルコール消毒をすることも重要です。先ほど紹介した「オミクロン株の特徴を踏まえた感染防止策について」でも、食事前の手洗いは推奨されています。
市販されているボトルタイプの消毒液を使用する際は、ワンプッシュ分を最後までしっかり手に取り、手のひらや手の甲だけでなく、指の間や指先、爪の周囲もしっかりと除菌することが大切です。
感染リスクが高い場所への外出はなるべく避ける
感染リスクが高い場所への外出は、なるべく避けることをおすすめします。感染対策をしていても、ウイルスへの感染を100%防ぐことは難しいためです。感染リスクが高い場所としては、具体的には以下が挙げられます。
【感染リスクが高い場所】
- 飲酒を伴う飲酒の席
- 大人数・長時間の食事の席
- 換気されていない・しにくい密室空間
原則として、狭い場所に人が集まっている場所や、近距離で会話をするような場所では感染リスクが高まります。特に食事の席は席自体が密接している場合が多いほか、食べながらお酒を飲むこともあるでしょう。お酒は気分が高まる上に聴覚が鈍感になるため、大きな声で話したり、マスクを外したりなど感染対策が疎かになりがちです。
エアロゾル感染を防ぐための具体的な換気方法
エアロゾル感染を防ぐ方法の1つとして、換気が挙げられます。換気の具体的な方法は以下の通り。
【エアロゾル感染を防ぐための換気方法】
- 窓・扉を開ける
- 換気扇の使用
- 換気設備の使用
窓・扉を開ける
代表的な換気の方法として知られているのが、窓や扉を開けることです。窓や扉を開けることで、部屋の中の空気と外気を入れ替えられます。よくエアコンで換気できると勘違いする方が多いですが、基本的にそれは間違いです。一般的なエアコンには換気機能がないため、もしエアコンを使用するとしても換気は別途必要です。
換気扇の使用
換気を上手に行うためには、換気扇の使用も欠かせません。台所やトイレ、浴室などに設置されている換気扇を使うことで、効率的に換気できます。特に排気量が大きい台所の換気扇を活用することがおすすめです。台所の換気扇を回し、台所からできる限り離れた場所にある窓を開けることで空気の通り道を作ります。
換気扇から近いところの窓でも空気の通り道は作れますが、換気できる範囲が小さくなり、部屋全体の空気を換気できないことは覚えておきましょう。浴室の換気扇に関しては、稼働させるとカビ対策にもつながるため、常時稼働させておくとよいです。
換気設備の使用
住宅の換気設備を使用することも、大切な換気方法の1つです。建築基準法の改正により、2003年7月1日以降に建てられた建築物には、換気設備の設置が義務付けられています。換気設備は、24時間稼働させることで効果を発揮します。そのため、常に運転している状態にしておきましょう。
換気効率を高めるポイント
換気を行う際には、効率を考えて工夫することが大切です。効率を高めることでエアロゾル感染のリスクを減らせることはもちろんですが、室内の空気を新鮮にして気持ちをリフレッシュさせる効果も期待できます。
細かい換気を数回に分けて行う
効率的な換気のコツとしてまず挙げられるのが、細かい換気を数回に分けて行うこと。長い時間の換気を長いスパンをあけて行うよりも、短い間隔で短時間の換気をした方が効果を出しやすいためです。5~10分程度の換気を、2時間に1回程度行うのが理想的でしょう。
また、寒い季節においては長時間換気をすると部屋の中が冷えてしまうため、短い換気を高頻度で行うようにすることをおすすめします。
窓は2カ所以上開ける
換気を行う際には、窓を2カ所以上開けることが重要です。1カ所の窓を大きく開けたとしても、部屋の中で空気の流れが生まれないため、換気の効率が上がりません。2カ所の窓を開けることで空気の入口と出口が生まれ、空気の通り道ができるのです。
複数窓がある場合は、可能な限り対角線にある窓を開けると、空気の通り道を長く確保できるためおすすめです。また、空気は狭い口から広い口に流れる性質があるため、片方を狭く、片方を広く開けると、効率的な空気の流れを生み出せます。もし窓が1つしかない場合は、ドアを開けて扇風機を窓の外に向けて運転させることで、空気の流れを生み出すことが可能です。
まとめ
エアロゾルとは、気体中に浮遊する微小の液体、もしくは固体の微粒子と周囲の気体との混合体のこと。エアロゾルにはさまざまな種類があるほか、粒子の大きさの範囲も広いなどの特徴があります。人体に入ることで健康被害を引き起こしたり、中に含まれるウイルスに感染してしまったりするため、しっかりと予防対策を取ることが重要。空気の換気や手洗い、消毒などを励行し、感染を未然に防ぎましょう。