オフィスや自宅で利用する空調機器が手放せない一方、「省エネ対策を実施しながら使用したい」という方も多いのではないでしょうか。空調の使用電力は比較的多いため、省エネを実現することで節電が見込める上、地球温暖化対策にもつながります。
今回は、省エネの概要を解説し、具体的な空調の省エネ方法や、省エネで得られるメリットについて紹介します。
省エネってなに ?
省エネとは、「エネルギー資源を効率良く使うこと」を指す言葉。なぜ省エネが必要かというと、人々の生活で使用している電気やガス、水道などのエネルギーには限りがあるからです。石油や天然ガス、石炭などの資源は、手を加えられていない「一次エネルギー」と呼ばれる状態で、それらの資源埋蔵量には限りがあります。
【世界のエネルギー資源確認埋蔵量】
確認埋蔵量 | 可採年数 | |
石油(※1) | 1兆7,324億バーレル | 54年 |
天然ガス(※1) | 188兆㎡ | 49年 |
石炭(※1) | 1兆741億トン | 139年 |
ウラン(※2) | 615万トン | 115年 |
出典:一般社団法人日本原子力文化財団「【1-1-6】 世界のエネルギー資源確認埋蔵量」
※1 2020年末時点
※2 2019年1月時点
上記の表のように、エネルギー資源の埋蔵量には限りがあるとされているため、できるだけ無駄なく使用しなければなりません。
なお、一次エネルギーは人々の生活でそのまま利用できないため、精製や発電など一定の加工方法で「二次エネルギー」に変換した上で、人々の元へ供給されます。空調や冷蔵庫などの電化製品、ガス給湯器、スマートフォン、パソコンなど、人々の暮らしはエネルギーによって支えられているといっても過言ではないため、省エネが重要なのです。
省エネと地球温暖化の関係性
省エネには、限りある天然資源を効率的に使えることに加えて、地球温暖化を防止するという側面もあります。というのも、地球温暖化の原因とされている「温室効果ガス」は、省エネを実現することで発生量を減少させられるためです。
以下によると、温室効果ガスの構成成分の大部分を、二酸化炭素が占めていることがわかります。
【温室効果ガスの構成成分】
- 二酸化炭素(化石燃料由来):65.2%
- 二酸化炭素(森林減少、土地利用など):10.8%
- メタン:15.8%
- 一酸化炭素:6.2%
- フロン類等:2.0%
二酸化炭素は、石油や石炭などの化石燃料を燃やしたり、空調などの電化製品を利用したりした際に発生します。そのため、省エネを促進して二酸化炭素の排出を抑えれば、地球温暖化を抑止する効果も期待できるのです。
省エネの重要性
先述のとおり、省エネを推進すれば、地球温暖化を抑止できるという効果もあります。地球温暖化や気候変動が進むと、以下のような影響があるとされています。
- 作物が育ちづらくなる
- 海や陸の生態系が破壊される
- 自然災害が増える
特に近年、気候変動によってもたらされた大規模な自然災害が世界中で猛威を振るっています。日本国内においては、河川の氾濫や土砂災害、都市水害など、毎年のように各地で被害が起きている のが現状。豪雨によってもたらされる水害も、地球温暖化による気温上昇が関係しているとされている ため、省エネは重要です。
また、日本では、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」が推進 されていることもあり、省エネは全員が意識的に取り組むべき課題といえるでしょう。
空調の省エネ方法
では、空調の省エネを実現するためには、具体的にどのような方法があるのでしょうか。ここでは、省エネに効果的な6つの方法をご紹介します。
【空調の省エネ方法】
- 省エネ性能の高い空調に更新する
- 設定温度の調整をする
- 空調の熱交換器・フィルターの定期清掃を行う
- 室外機の吸気温度を下げる
- 室内で発生する熱を減らす
- 室外機付近の障害物を減らす
これらの方法は、どれも実践しやすいものばかりですので、ぜひ実践していきましょう。それぞれの方法について詳しく紹介します。
省エネ性能の高い空調に更新する
空調機メーカーは性能を見直して二酸化炭素の排出量の削減に取り組んでいるため、省エネ性能が高い空調に更新するのも一つの方法です。特に、空調のライフサイクルにおいて、二酸化炭素の排出量を多く占めるのは「製品の使用時」と「使用時および廃棄・リサイクル時の冷媒影響」によるもの です。
大手空調メーカーでは、性能を見直すことで製品のライフサイクルにおける二酸化炭素の排出量を10年前に比べて約20%削減 することに成功しています。そのため、現代の技術が反映された空調へと更新することで、省エネ効果が期待できるでしょう。
また、古い製品から新しい製品へ交換することによって、毎月の電気代の節約にもつながります。特に、企業などで複数台の空調を稼働させている場合は、稼働台数分の電気代が節約できるため、更新する効果がより高まりやすいでしょう。
設定温度の調整をする
空調の設定温度を見直すことでも、エネルギー消費量を抑えることが可能。経済産業省資源エネルギー庁によると、冷房時の推奨設定温度は28℃、暖房時の推奨設定温度は20℃としています。
例えば、設定温度28℃で、1日における冷房の使用時間を1時間短縮させれば、以下の効果があるとされています。
- 省エネ(電気):18.78kWh
- 二酸化炭素の削減量:9.2kg
また、設定温度を2℃上昇させることで、約11%の省エネ効果がある とされているため、設定温度の見直しは重要といえるでしょう。
空調の熱交換器・フィルターの定期清掃を行う
空調に備わっている熱交換器やフィルターを定期的に清掃することも大切。なぜなら、空調フィルターの目詰まりや、熱交換器の表面の汚れがあると、空調効率の悪化につながり、エネルギーの消費量が多くなるためです。
そのため、月に1回程度は点検し、必要に応じた清掃をおすすめします。空調フィルターの清掃方法は、以下の通りです。
【空調フィルターの清掃方法】
- 埃を吸い込まないようにマスクを着用した上で、パネルを空けて内部のフィルターを取り外す。
- フィルター表面の埃や汚れを水で流して、隙間の埃や汚れもフィルターブラシでしっかり取り除く。
- 完全に乾くまで陰干ししてから、再び取り付ける。
ただし、熱交換器の清掃は、基本的にクリーニングの専門業者へ依頼しましょう。ホームセンターなどでは、熱交換器向けの洗浄液が販売されていますが、空調機器のメーカーでは使用を推奨していません。万が一、熱交換器以外の制御基板や温度センサーに洗浄液が付着すると、空調機器が故障したり火災が発生したりする原因になる ためです。
フィルターの清掃に関しても、空調の台数が多いというケースなどでは、専門業者へ依頼することをおすすめします。
室外機の吸気温度を下げる
室外機の吸気温度や温度環境を見直すことでも、省エネ効果が期待できます。そもそも空調は、2本のパイプでつながっている「室内機」と「室外機」が、外気と室内の熱を交換することで、室温を調整する機器 です。
例えば、冷房稼働時の室外機は、パイプを通じて室内機から送風された空気を、熱交換器で冷やした上で室内機へ送る役目を持っています。つまり、室外機が直射日光にあたるような環境では、熱交換器で空気を冷やす効率が悪くなり、より多くのエネルギーが必要になってしまうのです。
一方、冬場に暖房として使用する場合は、外気の熱を室外機の熱交換器で取り込み、利用することで、室内に暖かい空気を送風 します。そのため、夏場とは反対に、室外機を直射日光にあたる環境に設置することがポイントです。
例を挙げると、夏場に冷房を稼働させる場合は、室外機に直射日光があたらないように、すだれを設置したり、遮熱シールを貼り付けたりすることで室外機の温度が下がり、省エネ効果が期待できるでしょう。遮熱効果があるグッズは、室外機の天面全体を覆うタイプのものや、あらかじめカットされたものを貼り付けるタイプのものなど種類が複数ある ため、用途に応じて最適なものを選択できます。
室内で発生する熱を減らす
室内で発生する電気機器の熱を減らせるよう、未使用時は電源をオフ状態にする対策などもおすすめです。室内のパソコンなどのOA機器は、備え付けのヒーターが熱負荷となって室温を上昇させてしまい、結果的に空調を無駄に稼働させる原因となってしまうためです。
節電も兼ねた具体的な対策例は、以下の通りです。
【室内の温度上昇を抑える対策方法】
- パソコンなどは、省電力モードや節電モードを設定する
- コピー機やプリンターは、節電機能や予熱機能を利用する
- 昼休み時などは、業務に支障を来さない範囲で電源をオフにする
上記のような対策を施すことで、室内の温度上昇の抑止につながるでしょう。
室外機付近の障害物を減らす
室外機付近に障害物がある場合は、レイアウトを変更することでも省エネ効果が見込めます。例えば、冷房稼働時は、室内の熱を室外機から排出しているため、障害物があることでその排出効率が下がり、結果的に空調のエネルギー消費量が増える原因となってしまうでしょう。
室外機が塀や植木などに囲まれていることで、放熱した熱を再び吸い込む現象を「ショートサイクル」ともいい、空調の稼働効率が下がるばかりか、オーバーヒートを起こしたり、故障したりする恐れもある のです。
室外機から障害物の距離の目安は、メーカーや製品によって違いがありますが、室外機の天板は原則開放とし、四方は10~35cm以上の空間を確保するのが一般的 です。どうしても塀との距離が取れないという場合であっても、架台やブロックを活用して、できる限り空間を確保してあげましょう。
空調の省エネによって得られるメリット
空調を省エネ状態で使用して得られる主なメリットは、以下の3つです。
【空調の省エネによって得られるメリット】
- 電気代の削減
- 地球温暖化対策に貢献
- SDGsの一環にもなる
電気代の削減など個人や企業におけるメリットだけでなく、地球温暖化対策になるなど環境にも貢献できる点が特徴です。それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
電気代の削減
オフィスや事業施設などにおいて、空調の電気代は大きな割合を占めています。資源エネルギー庁の発表によると、電力消費の内訳は以下の通りです。
【電力消費の内訳】
- 空調:48%
- 照明:24%
- OA機器:16%
- エレベーター:5%
- その他:7%
※出典:資源エネルギー庁「節電アクション」
空調の電力消費量は48%となっており、その他の電力消費量を上回る大きな割合を占めています。そのため、空調を省エネ状態で使用することで、使用する電力も自然と減るため、電気代の削減へつながるのです。
先述した空調の設定温度の見直しなどを進めやすくするためにも、クールビズやウォームビスを浸透させておけば、社員が働きやすい環境を保ちながら省エネを実現できるでしょう。
地球温暖化対策に貢献
省エネを実施すれば電気の使用量を抑えられるため、結果として地球温暖化対策への貢献につながる点もメリットです。例えば、外気温6℃の場合、暖房の設定温度を21℃から20℃に下げることで、年間で二酸化炭素は25.9kgも削減 できるとされています。
先述のとおり、地球温暖化は近年の気候変動や自然災害の原因の一つともいわれているため、環境課題を解決するためにも省エネは重要なアクションです。
なお、空調の運転モードを「自動」にすることでも、消費電力の抑制効果が期待できます。なぜなら、空調が最も電力を使用するのは稼働し始めたときであり、自動運転にすることで目標温度に対して効率的に稼働してくれるためです。
SDGsの一環にもなる
空調の省エネは、SDGsの一環としても有効な取り組みです。SDGsでは、「2030年までに達成すべき17の開発目標」を掲げており、その中でも以下の目標に対して空調の省エネは貢献します。
- 目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
- 目標13「気候変動に具体的な対策を」
上記の通り、目標13では気候変動に対する対策を目標として掲げています。地球温暖化対策にも通じる開発目標であり、無駄なエネルギー消費を抑えることでSDGsの目標を達成するための一環にもなるのです。
なお、2022年に発表されたSDGs達成度ランキングの日本の順位は19位 という結果。日々の暮らしで省エネを実施しながら、今後も世界と連帯しながら取り組みを継続することが大切です。
まとめ
空調の省エネを実現するためには、設定温度の調整や室外機付近の障害物を減らすことが有効。また、空調の中には省エネ効果が高い製品も販売されているため、買い替えを検討するのも一つの方法です。
オフィスなどの使用電力量における空調の割合は48%と非常に高いため、省エネを促進することで電気代の削減効果も期待できます。さらに、二酸化炭素を削減することで地球温暖化防止にも役立ち、環境課題の解決に向けたアクションになるという点もメリットです。
ぜひご紹介した内容を参考にしていただき、省エネ効果を高めて空調を利用してみてはいかがでしょうか。